「エンジン付での初フライト」

                                                            小黒久幸

  あるふとしたきっかけで、1月24日から3泊5日でハワイに行けることになり
  ました。のんびりしていても良かったのですが、どうせなら日本で出来ない事を
  しようと思い、インターネットでハワイのオプショナルツアーというのでどんな
  のがあるか調べてみました。

  セスナの体験飛行というのがあり、その時(12月中旬頃)は $120/Hr で安いん
    じゃないかと思いました。グライダーの遊覧ツアーは $90/30Min ぐらいでした。

  どうしようかと考えていましたら、その次(1月初め)に見てみましたら、$130/Hr
  になっていました。これは早く申し込まないとまた上がるのではないかと心配に
  なり、インターネットで申し込んでしまいました。

  しばらくしてまた見てみると $140/Hr になっていました。料金は現地に着いたら
  早めにデスクで払ってくださいとのことでした。
  
  ハワイに着いた初日は空港に着いてホテルへ直行、夕飯までは自由行動です。
  1月でしたので現地は雨季、小雨も降っていました。

  早速、ガイドブックとインターネットで調べた地図を基にロイヤルハワイアン
  アヴェニューへ行きました。インターネットで調べた写真通りの建物があり、
  2階へ上がっていきましたら小さなみやげ物の店でした。 

  私 :「ハロー」 多分日本語的英語だったと思います。

  相手:「こんにちは」20代前半くらいの中国系の女の子・・ハワイではじめて
      話した外国人

  私 :「申し込んだツアーの料金を払いに来たのですが」(何だ日本語が通じる)

  相手:「何のツアーですか?」

  私 :「1月26日のセスナの体験搭乗ですが」 お金を出す素振りを見せたら

  相手:「130ドルですね」と言って領収書を書いてくれました。  
      インターネットの料金が変わっていたので145ドルといわれるかと思い
      ましたら、大丈夫でした。

  相手:「ここで10時に待っていてください」 

  私 :「どこですか?」

  相手:「ここはあなたのホテルでしょ」と地図を見て言いました。
     (今日来たばかりだよ)

  当日、ホテルのツアー待ちの場所で一人で待っていました。
  ほかの人達がバスや長いリムジンで次々にどこかのツアーに出かけて行きます。

  段々人が少なくなってきて、そのうち小型のワンボックスが到着、日本人のような
  小柄な人が降りてきました。 

   「オグロさ〜ん」

   「はい、私です」

   「車にどうぞ」

  すぐに走り出ししばらく沈黙がありましたが

  、「どちらからですか?」

   「東京です。」

   「私は小山です。八王子にいました。」(日本人でした)

   「今日教えていただける教官の方ですか?」

   「そうです。」

   「時々、日本に帰っているのですか?」

   「3年ぐらい帰っていません。ロスにいましたがこちらに呼ばれてここにいます。」

  いろいろ話しましたが、小山さんは自衛隊でパイロット養成コースにいましたが
  地上に回ったみたいで、その後アメリカに渡り飛行機のライセンスを取ったようです。 
  今はハワイでヘリのライセンスを取得中とのことでした。

   「今日の機種は何ですか」

   「セスナ150です。」

  (事前の写真はパイパー28かうまくすればボナンザかと予想していましたが)
  何だと思いながら(格安料金だから仕方がないか、飛べるだけいいや)
  かなり曇っていたので

   「今日飛べますかね。」

  と尋ねましたら、

   「場所によって大丈夫だと思います」

   「昨日、ココマリーナにいたのですがそっちのほうには行けますか。」

   「今日は西のほうに行ってみようかと思っていましたが!」
   「東が晴れていたら行ってみましょう」 

  高速道路でホノルル空港のほうに向かっていましたが、だんだん寂しい方に
  向かって行き、でも空港からは離れて行きません。
  空港の端の小さな木造の小屋の前で降ろされ

   「あそこで待っててください」 

  小屋の前は屋根つきのプラットホームのような所で、椅子が6脚くらいと
  小さなテーブルがありました。

  女性が出てきて誓約書にサインをしました。しばらく待っていると、

   「今、許可をもらっています」

  事務所では女性の人がタワーと携帯電話でやり取りをしていましたが、
  多分フライトプランを申請していたのだと思います。
  (何だフライトプランは電話でいいのか)

   「今返事が来ますから」

  と言いながら駐機場に入る金網の扉の南京錠を開けてくれました。 
  駐機場は雨でぬれていました。
  中には一番前にセスナ150が2機並んでいます。1機は白地に普通の塗装、
  もう1機はいかにも古そうで緑とオレンジのツートンカラーで湘南電車カラ
  ーです。

  どっちかと思いながら、ツカツカト歩いて目の前のセスナ150、湘南電車
  カラーの方に進んでいきました。(N61233)
  扉を開けてくれて

   「どうぞ」

  と言われ乗り込みました。(かなりぼろいなー)
  計器版はなんだかフル装備みたいな計器版でした

  ここで操縦装置等の細かい説明があると期待していましたが、ヘッドフォーン
  を渡され座って付けたら

   「許可が出ました」

  と言われ両方の扉が閉まりました。

   「グライダーに乗ったことがあります」

  ということを言っていましたので、

   「エルロンをまわして、エレベーターも見てください」

  それだけです。

   「じゃー エンジンを掛けます」

  ブルン! 
  一発で回り始めました。
  暖機運転もなくいきなり管制塔と交信を始めたと思ったらもう動き始めました。
 
   「黄色い線に沿って走ってください。」
   「ペダルの上のほうは踏まないでくださいね。」

  いきなり操作させられ、まっすぐ走るのは結構大変でした。<SQ1200> 
  左側には小型機がだんだん多くなりかっこいいのもあります。
  ここで回って(黄色い線が右に回っている)下さい。
  タキシーウェイの端の方でした。

   「この前の滑走路を横切って向こうの滑走路から離陸します。」 

  横切る滑走路の手前で左を見たらアプローチに入っている飛行機たぶんB737
  ではないかと思う飛行機の LANDING LIGHT がかなり手前に見えていました。
    急がねば!!と思っていましたが小山さんは平気な顔をしていました。

  滑走路に正対したら止まることなく、いきなりスロットルを全開にしました。
  ブルルン!

   「ペダルの上を踏まないでください」

  あっという間に離陸をしたら

   「そのまままっすぐに飛んでください。」

   「左に高速道路が見えますか?」 

   「はい見えます。」

   「あれに沿って飛んでください。」

  1500ftを維持しながら飛んでいると

   「そこの黒い丸いのがトリムです。楽になるように適当にまわしてください。」

  適当にまわしました。
  左のほうを見ると山に雲が掛かっています。(あの雲がこっちにくると嫌だなあ)
  右にはワイキキの海岸がホテルに隠れて見えませんでした。

  そういえば、空港へ来る車の中で話をしていた時に

   「Wのつく地名が多いですね」

  と言ったら「WAI」は水を意味し、「KIKI」は湧き出てくる所を意味して
  いるそうです。

  ダイヤモンドヘッドを右に見ながら(小山さんでよく見えなかった)しばらく行く
  と、また海岸線が見えてきました。

  ココマリーナが先のほうに見え、近づいてくるとエメラルドグリーンがとても
  きれいでした。
  (昨日のちょっと前の時間にはこの下で潜っていたな、今日は上からだ。) 
  
  そこを過ぎてさらに行くと海岸線が急に左に曲がっていきます。下にはアンテナの
  立っている山がくっきりと見えています。

  昨日のマリーナの人が何とかと言っていた山です。
  海岸線が左に切れていて、左に旋回してまた海岸線に沿って飛んでいると下に潮吹き
  岩が見えてきました。

   「前の下にヘリコプターがいますよ。」

   「どこかな??」(いた! ずいぶん下だな、500ftくらい下だと思いました)

  左前方先の方を見ると山に雲が掛かっています。(あそこには行けないな) 
  小山さんは

   「あっちには行けませんね。ここで戻りましょう。右旋回で戻ってください。」

  (右よし! バンク15°高度1500ft)と思いながら右旋回をしました。

  前は海しか見えません。怖い!
  右側に海岸線が見えてきましたのでバンクを元に戻し飛び続けます。

  しばらく行くと小山さんが管制塔と交信しILSの許可を貰っているようでした。
  英語でやっていたので完全には解りませんでした。 

  でも断られていたようです。
  しばらくすると管制塔のほうから何か言っていました。
  小山さんが

   「ILSで降りましょう。」

  (何だこの計器達はほんとに使えるものなのだ)<SQ2200>

   「左旋回して210°に合せてください。」

  えっ海岸線から離れるぞ。
  気持ちよくありませんでしたがILSで降りられることの喜びの方が優先されて

   「了解」

  と言いました。

  しばらく飛ぶと前は海のみ、後ろを見るとどんどん陸から離れていきます。
  そのうち雲が入ってきて急に真っ白になったりします。

  とっさに計器版を見ると左に傾いているのが解ります。
  すぐ修正をして(水平に、1500ft)、外など見ている暇がありません。

  時々雲が切れて海が見えますが、(おお、大丈夫、大丈夫)と感じました。
  雲に入るたびに左に傾きました。  
  管制塔から

   「右旋回240°に!」

  バンクをつけながら旋回すると小山さんは

   「ラダーだけでいいですよ。」

  非常に楽になりました。右旋回270°に。
  この時点では雲の中のままでした。

  しばらく行くと360°(これで陸地のほうにいけそうだ)。

  小山さんが

   「しばらくするとこの斜めの白い棒が動き始めますので水平、垂直に
    クロスするように飛んでください。」

  全然動かないぞ?! そのうち動き始めました。
  (後で考えると、そんなに時間がたっていなかったと思いました。)

  (おお、MAICROSOFTの FLIGHT SIMURATOR と同じだ。)
  スロットルは小山さんが調整しました。(B747-400のオートスロットルだ!!)

  滑走路が見えてきました(RUNWAY INSAIGHT!)
  左のランプも白と赤、(いいぞ)

  どのくらいの高度からか忘れましたが、後は目で滑走路を確認した方が
  降りやすかった。
  小山さんが

   「車輪をつけないで、・・・・ 車輪をつけないで」

  何度か言われましたが、何のことか良く分かりませんでした。
  でも、この辺でフレアーを掛けないとと思い少し引きました。

  フワッ ちょっと早かったかな。軸線が少し右にずれていました。
  (滑走路の上だ。 降りちゃえ)と思いましたらキュウと音がしました。
  小山さん

   「降りられましたね!!!?」

  小山さんはスロットルを調整しながら

   「そのまま進んでください。」

  よく見えないと思ったら、窓には雨粒がボタボタつき始めました。

   「そこで右に曲がってください。」

  滑走路を横切ってタキシーウェイに入りました。
  前には小型機がたくさん止まっています。

   「左に曲がってそこのラインに沿って進んでください。」

  さっき(離陸前に)通った線だ。
  もう前には何もありません。
  一番端っこまで着ました。
  残り30mくらいになりました。
  小山さんが

   「ここから駐機場所まで私がやります。」

  両足を離して止まるのを待ちました。

   「もうヘッドフォーンを外しても良いですよ」

   「降りてください」

  ドアーラッチを引いても開きません。壊れていました。

   「開きませんよ。」

  と言ったら、平然と

   「外から開けますから待っててください。」

  (ええっ、不時着していたら中から開かなかったのか。)
  外から開けてもらい降りました。
  FIRST FLIGHTが終わって気持ちよかった。

   「初めてのフライトでILSで降りられるとは思いませんでした。
    良かったです」

  と言ったら、小山さんが

   「最初は断られたのですが、後で許可が降りたんです」

  と言っていました。
  機体の前で写真を一枚とって事務所の方に歩いていきました。
  空港の事務所に戻って話をしていたら、女性が

   「離陸した後、雨がすごくなったので、どこへ行ったのかと思いました」

  と言っていました。

   「あの後の遊覧などはみんなCXLになったんですよ」

  運が良かったと思いました。
  確かに機体から出たらまだ雨が降っていました。 
  事務所でCERTIFICATEをもらって

   「またどうぞ」

  と言われホテルに戻りました。
  帰りの車の中で小山さんが

   「休みを取ってライセンスをとりに来る人がいますよ。」
   「2週間くらいの休みが3回ぐらいあると取っていく人いますよ。」

  ハワイの飛行機たちは殆どがILSを装備しているとのことでした。
  洋上に出て海しか見えなくなったらたよりにするものはありません。

   「なるほど」

  と本当に思いました。
  エンジンがついていることの気持ちの楽さは何にも言いがたかった。
  止まったら降りるだけ!!! 無いことの大変さを改めて思いました。
 
  ハワイでのその他の話は会ったときにします。
  何度でも行きたくなる所です。 

  なんと言ってよいか!!!

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